秀英体のコネタ
2005年02月10日
第1回 カモメはカモメでも
カモメ、と漢字で書いてみてください。海の上を飛ぶ、あのカモメです。
「匚」を書いて「メ」、そして「鳥」で、「鴎」。多くの人は、この字を書くでしょう。
明治の文豪・森鴎外の名前にも、カモメの字が入っています。しかし、書店で見る鴎外の文庫本や全集の表紙は、多くが「匚」を書いて「メ」の「鴎」でなく、「匚」を書いて「品」の字、つまり「鴎」の正字が印刷されているのではないでしょうか。


左:平成明朝体W3(新字)、右:秀英細明朝体(正字)
平成4年(1992)から始まる秀英体デジタルタイプのファミリー開発に先駆けて、本来の正字を使用したい作家や老舗出版社の要望に応えることのできる、DNPの出版印刷基本文字セットが求められました。
現在一般的に利用されるデジタルフォントでは、使用頻度の高いJIS第2水準以内はJIS例示字形の文字が使えるようになっています。しかし秀英体は出版印刷で要望の高い正字を優先して、文字セットに収録しています*1。文字セットは本の仕様を決める段階で「DNPの文字セットで」「83JISで」のように指定されます。そこでDNPの出版文字セットを用いることになると、正字の「匚」に「品」のカモメが印刷されます。
普段よく見るような文字も、実はこのようになっています。
| 平成明朝体 | 秀英体 | |
|---|---|---|
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内側の点が「人」になっています。 (JIS:0x4B4B) |
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旁の点が、「はちやね」になっています。 (JIS:0x4139) |
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旁の脚が違いますね。 (JIS:0x3133) |
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「麦」の部分が「頬」同様に違います。 (JIS:0x396D) |
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二点しんにょうになっています。 (JIS:0x3029) |
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点がハライになっています。 (JIS:0x452E) |
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旁の「立」が「文」になっています。 (JIS:0x3841) |
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食扁も正字型になっています。 (JIS:0x303B) |
など、JIS第2水準までの範囲内で、およそ500字にのぼります。
点がハライになったとかならないとか、確かに小さな違いです。しかし、漢字はその文字が生まれたころまで辿ると、その点ひとつに何らかの意味があったことがわかります。読者が混乱しない範囲で、なるべく正字で表現することによって、著者がその言葉に込めた思いは、より細やかに読者に伝わるのではないでしょうか。
お手元に秀英細明朝体で印刷された本*2があれば、ぜひ文字をじっくり観察してください。普段手で書いているのとは、ちょっと違った漢字が出てきたら……それは、出版社と印刷会社の間で育まれた、文字のルールなのです。
(2005.2.10 佐々木)
- *1 常用漢字については、常用漢字表で示された例示字形に合わせています。
- *2 秀英細明朝体のデザインについては秀英体のデザインを参考にしてください。