秀英体とは
秀英体の現在・過去・未来
秀英体は、大日本印刷の前身である秀英舎の時代から、100年以上にわたり開発を続けている書体です。
近代化が急速に進展した明治初期に、秀英舎は印刷を「文明の営業」と表現して活版印刷に力を注ぎ、やがて自社で活字の開発にも取り組み始めました。およそ100年前の明治45年(1912)には、初号から八号までの各活字サイズの明朝体が揃います。完成した秀英体は「和文活字の二大潮流」と評され、現在のフォントデザインに大きな影響を与えています。
活字書体として誕生した秀英体のデザインは、活字の大きさや時代のニーズに合わせた、豊富なバリエーションが特徴です。気骨ある迫力の初号、流れるように繊細な三号、そして安心感と明るさを兼ね備えた秀英明朝Lなど……。根底に共通するいきいきとした筆づかいは、ことばに雄弁な表情を与え、あざやかに彩ります。
この100年、文字をめぐる環境は活版印刷からDTP、そして電子書籍へと大きく変化しています。しかし、いかに環境が変わろうとも、文字はコミュニケーションの基盤であり、美しく読みやすい書体が果たす重要性は変わりません。
さらに変化するであろう次の100年に向け、2005年から秀英体のリニューアルプロジェクト「平成の大改刻」に取り組んできました。常に新しく生まれ変わり、最前線で使われ続ける書体であること..秀英体とは、革新の姿勢そのものだといえるでしょう。
年表
活版印刷用の活字書体として誕生した秀英体も、現在では印刷のみならず、ディスプレー表示や電子書籍にいたるまで利用シーンが広がっています。技術の変化とともに、秀英体も変化してきました。
明治 | 1876 明治9 |
現在の銀座・数寄屋橋交差点付近で、秀英舎が創業。 |
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スマイルズ『改正西国立志編』洋装本印刷。 | ||
1881 明治14 |
活字の鋳造設備導入。自社で活字を作り始める。 | |
1882 明治15 |
活字の製造販売部門である「製文堂」を設立。 | |
1889 明治22 |
「五号活字見本」発行。自社で書体の開発を本格化。 | |
1903 明治36 |
総合見本帳「活版見本帖 Type Specimens」発行。 | |
1910 明治43 |
総合見本帳「活版見本帖 Type Specimens」発行。 | |
1912 明治45 |
全活字の整備終了、初号から八号までの秀英体完成。 | |
大正 | 1914 大正3 |
総合見本帳「活版見本帖 Type Specimens」発行。 |
1915 大正4 |
ポイント活字の母型が完成。 | |
1923 大正12 |
関東大震災の被害を受け、秀英舎本店を市谷に移転。 | |
昭和 | 1935 昭和10 |
秀英舎と日清印刷が合併し大日本印刷と改称。 |
1948 昭和23 |
ベントン式母型彫刻機を導入。母型製造の機械化。*1 | |
1951 昭和26 |
彫刻機による新型母型「A1明朝」が実用開始。 | |
1958 昭和33 |
金属活字のサイズをポイント制に統一し、号数制を廃止。 | |
1968 昭和43 |
A1明朝原字を細型化する改刻作業開始。 | |
1976 昭和51 |
コンピューター組版用に秀英体のデジタル化開始。*2 | |
1981 昭和56 |
写研より写植用文字盤「秀英明朝SHM」発売。 | |
1987 昭和62 |
モリサワより写植用文字盤「秀英3号」発売。 | |
平成 | 1992 平成4 |
秀英体拡充計画開始(字種拡張・ファミリー化)。 |
1995 平成7 |
電子書籍向けに秀英体のライセンス提供開始。 | |
2003 平成15 |
市谷工場の金属活版印刷を終了。 | |
2005 平成17 |
秀英体リニューアルプロジェクト「平成の大改刻」開始。*3 | |
2009 平成21 |
改刻した「秀英明朝L」をモリサワより発売。以降、秀英体ファミリーを順次発売。 | |
2011 平成23 |
「秀英体100」展開催。 | |
2013 平成25 |
『一〇〇年目の書体づくり -「秀英体 平成の大改刻」の記録』を刊行。 | |
2014 平成26 |
モリサワ「TypeSquare」より秀英体ファミリーのWebフォントを提供開始。 |
号数活字時代のデザイン
号数活字時代の見本帳から、書風が安定した完成期の書体を掲載しました。秀英体、と一口に言っても、これほどバリエーションに富んでいます。
秀英体を代表する秀英初号ですが、その登場は、実は一号よりも遅いものでした。この特徴的な書風は明治29年(1896)にすでに登場します。初号から文字サイズが小さくなるにつれ、ふところが広くとられ、徐々に可読性に重きをおかれる文字設計がなされています。
秀英細明朝体は、戦後すぐの母型彫刻機導入とともに新規開発されたA1書体をデジタル化した書体です。その後「平成の大改刻」を経て、現在は「秀英明朝L」として出版・広告・電子メディアなどで利用されています。この秀英細明朝体=A1書体を他の秀英体と比較すると、骨格が秀英四号に似ているのがわかります。
秀英四号のひら仮名は、2015年にデジタルフォントで復刻し「秀英四号かな」「秀英四号太かな」としても受け継がれています。
秀英四号以外の号数活字にも、現在に残るデザインがあります。
秀英初号は、株式会社写研から「秀英明朝(SHM)」(写植書体)として発売され、またDNPの「平成の大改刻」では「秀英初号明朝」として復刻しました。秀英三号と五号のひら仮名は、株式会社モリサワから「秀英3号かな」「秀英5号かな」として発売されています。
こちらに掲載した初号から六号までの見本帳は『秀英体研究』第4章に原寸掲載されています。号数活字の詳しい研究は第5章に掲載されています。
なお秀英初号から六号までは欣喜堂・今田欣一氏による画線修正済みデータを画像化したものです。
- ※初号=42pt、一号=27.5pt、二号=21pt、三号=16pt、四号=13.75pt、五号=10.5pt、六号=8pt にそれぞれ相当します。