秀英体のコネタ
2006年12月22日
第20回 ひろがるグラフィック 中島英樹展 CLEAR in the FOG
ggg 第248回企画展 「EXHIBITIONS: Graphic Messages from ggg & ddd 1986-2006」
- 国内の作家:
- 2007年1月11日(木)-1月31日(水)
- 海外の作家:
- 2007年2月6日(火)-2月28日(水)
- ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
- 11:00-19:00(土曜日は18:00まで) 日曜・祝日は休館
- 入場無料
2006年11月2日から25日まで、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で、第246回企画展「中島英樹展 CLEAR in the FOG」が開催されました。
書店でも、街角でも、ついハッと目を止めてしまう洗練されたクールな世界観で、常に新しいグラフィックを見せてくれる中島英樹さん。本展覧会では、今回のための新作と、選りすぐりの既存の作品が展示されました。
今回の秀英体のコネタでは、実は秀英体もちょっとだけ登場していた中島英樹展のようすを、ダイジェストでご紹介いたします。
目印は鮮やかなピンクの旗
1Fの展示
1Fは全て、今回の展覧会のために制作した新作です。空間をたっぷりつかっており、作品を1点1点じっくりご覧いただけます。
1Fはすべて新作です
入口を入ってすぐの壁には、中島さんがCDジャケットのデザインや、また「CODE」など共同のプロジェクトも多い坂本龍一さんからのメッセージパネルが展示されました。
坂本龍一さんからのメッセージ
こちら、実は秀英中明朝体が使用されています。gggでの展覧会なら秀英体を! とおっしゃっていただき、秀英体の登場となりました。シンプルに組まれていますが、文字と文字のスペーシングや太さなど、非常に細かい調整が行なわれています。秀英体の担当者も、初めてパネルのゲラを見たときに「こんなにきれいだったっけ……?」と思ってしまったほど。
秀英中明朝体は、通常の書籍の本文で使用されている秀英細明朝体よりも、ほんの少し太く出来ている書体ですので、今回のようなパネルでの用途や、グロス紙への印刷などで用いられます。
それでは新作をご紹介してまいりましょう。
インクジェットで出力した作品です。
同じ文字が向きを変えて並んでいるように見えますが、よーく見て下さい。それぞれ違うアルファベットですよ。
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シルクスクリーンでプリントした作品です。
黄色い紙に刷っているように見えますが、これは別の作品で使用したシルクスクリーンの版の上に、さらにシルクスクリーンで図柄をプリントしているのです。
スクリーンにスクリーンをプリント
いろいろな書体を使用した組版と、そこから作った亜鉛版、家庭用ファックスでカーボンプリントされた出力物が順に並んでいます。
紙、亜鉛、カーボンプリント
中島さんのご自宅のファックスでカーボンプリントされた出力物をスキャンしました。
印刷といっても、何もオフセットやシルクスクリーンだけが印刷ではありません。家庭用ファックスのプリントだって立派な印刷技術です。
家庭用ファックスから生まれた作品
こちらは立体になっています。実はインクジェットで印刷したものの上にアクリルを貼った卵型の作品を、レーザーで切断しています。
切断した状態でギャラリーに運び、現場で位置をレイアウトしていきました。
インクジェット+アクリル+レーザー
肩に「グラフィックデザイン」と刺青(ちょっと痛そう)の入った写真は、中島さんご自身を写したものです。
以前「アイデア」(誠文堂新光社)に掲載された写真です。
今回はこの写真から、郵便局の「オリジナル切手作成サービス」を用いて、切手を作りました。作品の右下に貼ってあります。
中島さんの刺青切手
次の作品は、たくさんの本が壁に接着されています。
すべて今までに中島さんが装幀を手がけた本が使用されていますが、実際に書店に並んだものではありません。これは束見本、つまり造本プランを決定するために、製本会社が作った見本なのです。
さまざまな紙、サイズ、製本方式の本が隙間なく並び、そこにレーザーで文字が刻まれています。
束見本を使った作品
こちらの4点は、カンヴァスの上に下地としてジェッソを塗り、その上からUV印刷を行なっています。
間近からみると、独特の質感が面白い作品です。
左から2番目の作品は、展覧会の販促物やgggブックスの表紙としても用いられました。
カンヴァスとは思えない、不思議な仕上がりでした。
階段の展示
地下展示室への階段踊り場には、金属活字を用いて印刷された作品が展示されました。
小さな活字と罫線が、柔らかなクリーム色の用紙に刷られています。
こちらは嘉瑞工房が組版・印刷を行ないました。
金属活版印刷で組版・印刷された作品
地下の展示
地下展示室は、これまでの膨大なお仕事から厳選された代表的な作品が並びます。
本の装幀だけでなく、広告、CDジャケット、食品パッケージに到るまで、その幅広い取組みが一望できます。
ナカジマフォント
このタイプフェイスは、その名も「ナカジマフォント」。中島さんが独自に作られたタイプフェイスです。Bold、Medium、Regular、Thinの4ウェイト展開。本展覧会チラシや作品にも使用されています。
一見シンプルなサンセリフ体なのですが、クラシックな骨格の文字がありつつ、ちょっとポップで明るい表情も持っています。
こちらは2000年にgggで開催された、若手デザイナーのグループ展「Graphic Wave 2000」に参加した際の作品です。
graphic waveでの作品たち
ポスターをじっと見つめると、実は同じような色が何版も重ねられていることに気が付きます。わずかにだけ色味の違うその境目、写真からおわかりでしょうか。
このポスターの持つ繊細な色の重なりを、作品集などの印刷で再現するのがまた難しい作業になりました。
かすかな色の違い、わかりますか?
2005年に香港のパオギャラリーで開催された「SEVEN EXHIBITION」の作品です。テーマは薔薇。
雑誌等の記事でこの作品を目にした方も多いのではないでしょうか。
テーマは薔薇
手作業であけたという穴
ポスターのあちこちに、小さな穴があけられています。
こちらは手作業であけたため、一枚ずつ位置が違うそうです。
額装にも注目。紙が自然に展示されているんです。
ちなみにこのコーナーは、ロンドンスタイルの額装で展示されていました。上部だけ留めることで、紙の持つふんわりとしたシワも見せるための展示方法です。
紙の専門商社である竹尾の展示会「竹尾ペーパーショウ2001」に出品した作品では、9種類の異なる白い紙をブロック上に配置し、ひとつの作品に仕上げています。
それぞれの紙の持つ固有の素材感が浮かび上がりました。
実は紙がすべて異なっています
やはり重なり合っています
もちろん何種類もの版が重なり合っています。
使われている書体はナカジマフォントですね。
型押しもあります。
クレジットは型押しで。紙だけでなく、いろいろな印刷技術も使われています。
中島さんのお仕事を語る上で、やはり外せないのはなんといっても雑誌「CUT」(ロッキング・オン)のエディトリアルデザインでしょう。
毎号毎号異なったテイストの誌面とタイポグラフィ。CUTで中島さんを知った方も多いはず。ちなみにわたしもそのひとりです。
膨大な作品のなかからの選りすぐりが展示されました。
何といっても「CUT」
展示台にずらりと並べられたのは、ブックデザインを手がけた書籍やCDジャケット、パンフレットなど。もちろんごくごく一部になります。中島さんの幅広いお仕事がよくわかります。
持っているものがいくつもありました
坂本龍一『非戦』(幻冬舎)、よしもとばなな『アルゼンチンババア』(ロッキング・オン)など中島さんのブックデザインでおなじみの方々の本も並びます。
絵本やコンサートパンフレットもたくさん
13人の写真家がEU加盟国25ヶ国を撮影した写真集「In-between」シリーズ(EU・ジャパンフェスト)は、撮影された国や写真家に合わせ、一冊ずつテーマとなる色と書体を変えています。
シリーズ2号目にあたる『In-between 2 港千尋 フランス、ギリシャ』では、秀英細明朝体を使っていただきました。
In-betweenシリーズ
たくさんの展示物の中でひときわ目を引く缶コーヒー。2001年に発売されたネスカフェNシリーズ(ネスレ)です。
中島さんがパッケージデザインを手がけていたそうです。
缶コーヒーまで!
展覧会に合わせて、作品集も発売されました。
ひとつはgggブックスシリーズの78巻として中島さんのこれまでの作品をコンパクトにまとめたもの。
もうひとつは1Fで展示された新作と未発表作品を集めた『CLEAR in the FOG』(ロッキング・オン)です。こちらは3000部限定生産のため、お取り扱い店舗が限られておりますが、中島さんの厳しい要求にDNPのプリンティングディレクターが技術で応えた一冊となっております。詳しくはロッキング・オンのサイトをご覧下さい。
『CLEAR in the FOG』は3000部限定です。おはやめに!
『CLEAR in the FOG』の表紙には四角い穴が開いています。何のためでしょうか?
なんとここにはもう一冊、中島さんのミニ作品集を収納することができるのです!
「アイデア」No.320(誠文堂新光社)の誌面に、この穴に入れる冊子が印刷されています。切り抜いて、製本し、ぜひ作品集の穴にはめてみてください。
実は裏テーマが「印刷」ということで、さまざまな印刷方式や紙、媒体の並ぶ展覧会となりました。間近で自分の目で見て気が付く仕掛けが多く、写真ではうまく伝えきれなかったかと思います。いろいろな場面で目にしてきた中島さんの作品が、こうして集まることで、「印刷」や「グラフィックデザイン」という世界が新しくひろがるのを感じました。
実は地下の展示台にはグリッドが印刷されていました。
グリッドに合わせて展示物をビシッと並べるために……。
(2006.12.22 佐々木)
さて、次回のggg企画展は開設20周年記念と致しまして、国内外25カ国の約170名の作家の代表作を展示します。
この20年間のグラフィックデザインを牽引した作品が一同に会するこの機会、お見逃しなく!