秀英体のコネタ
2014年4月11日
第35回 坂野公一さん(welle design)にお話を伺ってきました!
書体:
秀英初号明朝
(Std,9,354文字)
秀英初号明朝 撰
(Std+α,10,199文字)
フォーマット:OpenType
提供方法:MORISAWA PASSPORT、MORISAWA Font Select Pack
昨年10月に、モリサワパスポートの2013年新書体としてお届けした「秀英初号明朝 撰」。旧字や「ひっかけ」・「はちやね」付きの漢字、イタリックや括弧類などを搭載した書体ですが、2010年に発売した「秀英初号明朝」
とともに、使って頂いてますでしょうか?
今回のコネタは、第33回に引き続き、平成の大改刻で新しくなった秀英体ファミリーの仕事ぶりをチェックすべく、秀英体、特に初号明朝をご愛用頂いているグラフィックデザイナーの坂野公一さん(welle design)にお話を伺ってきました。
明治時代に見出し専用書体として誕生した秀英初号明朝は、書籍のタイトルや雑誌・新聞の大見出しに用いられてきました。その一点一画には書を思わせる奔放な動きがあり、明治時代の職人の感性が無ければ、生み出されなかったデザインです。
1981年には、写研より「秀英明朝SHM」という名前で、写植用文字盤として発売され、多くのデザイナーに愛用されてきました。しかし、完成期から100年が経ち、文字をめぐる環境が活版印刷や写植から、DTPへと変化する中で、デジタルフォントになっていなかった秀英初号明朝は、次第に使われなくなっていってしまいました。
「このままではいけない!この書体を復活させるんだ!」という燃えたぎる熱い思いが実り、平成の大改刻プロジェクトでついにデジタルフォントとして生まれ変わり、2010年秋よりモリサワを通じて発売したのが、現在の秀英初号明朝です。発売には、これまでデザイナーの皆様から寄せられていた「秀英初号明朝をDTPで使用できるようにしてほしい!」という声が大きな後押しとなりました。
当初、発売した秀英初号明朝には標準的な新字形を採用しましたが、その後、初号明朝らしい「ひっかけ」や旧字形もほしい!というユーザーのご要望を受け、2013年秋に発売したのが「秀英初号明朝 撰」です。収録した旧字形の大半は、開発当初から字母はできあがっていましたが、どのようにフォントに実装するか、慎重に議論を重ねて追加しました。さらに見出し用書体として、より使いやすくするため、イタリック体や括弧なども追加収録しました。秀英初号明朝とともに使うことで、シーンに応じて字形を撰べるフォントとなっています。
ここからは、2010年の発売当初より初号明朝をご愛用くださっている坂野公一さんのお話をご紹介いたします。
――「秀英初号明朝」へのご感想をお願いします。
坂野:市販化は待望でしたので、今では書籍のタイトルや見出し、帯に明朝を使用するときは初号明朝!というくらい重宝しています。名刺にも使っています(笑)
ぞろりん がったん 大門剛明 (実業之日本社) |
地底の科学 地面の下はどうなっているのか? 後藤忠徳 (ベレ出版) |
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タイトルに使って頂いています。 | タイトル、見出し、帯に横組みで使ってくださいました。 |
――具体的に、どのような点を気に入って頂いていますか?
坂野:タイトルや見出しで大きく使ったときに、力強いけれど、仮名も漢字も、キンキンしない(目に刺さらない)ところです。シャキっとしてプルっとしている!(笑)
あとは、書のような伸び伸びした美しい動きがある点ですね。
癖のある字に見えて、意外と、いろんなシーンで使いやすいです。
初号明朝は、ふところが絞られているため、大サイズでも間延びせず、シャキッと引き締まります。
一方、小サイズで使用する本文用の明朝Lは、潰れないように、ふところを広く設計しています。
パーツの拡大図(さらに大きく拡大する)
初号明朝は、大サイズで使用したときに、角や先端が直線的にならないよう、柔らかく自然な印影で目に馴染むような形状に設計しています。シャキッとしてプルっとしてますね!
――どのような点が使いやすいでしょうか?
坂野:字詰め以外は、ほとんど加工しなくてよいところですね。
そのままでもロゴのようにキマる感じで、大きく使えば映えるし、一方で、帯などで小さめに印字しても、文章が流れるように読みやすくなるので、安心感があります。
あと、搭載している数字やアルファベットも和文とマッチしていると思います。
――坂野さんは写植時代の秀英初号明朝(写研の「秀英明朝SHM」)もよくご存じですが、SHMと比べて改刻の初号はいかがでしょうか?
坂野:SHMに比べて、バランスが整っている分、使いやすいと思います。かといって、整いすぎていないし、仮名も漢字も、初号明朝本来の動きや味は活かされていて、美しく感じます。
初号サイズ(42pt相当)よりも大きなサイズで印字した時は、漢字の横線が太く見える時もありますが、気になれば、自分でディテールを加工しています。初号サイズでは問題ないので、ちょうど良いと思います。
新東海道五十三次 井上ひさし・文 山藤章二・画 (河出書房新社) |
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タイトルでは、漢字の横線を細く、また、印影の滲み、かすれの加工を頂いてます。 |
――新発売の「秀英初号明朝 撰」について、いかがでしょうか?
坂野:嬉しいです。やはり見出しでは漢字の「ひっかけ」や「はちやね」は欲しいですね。使いたいと思います。
日本語複文構文の研究 益岡隆志・大島資生・橋本修・堀江薫・前田直子・丸山岳彦・編 (ひつじ書房) |
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インタビューの後、早速「秀英初号明朝
撰」も使ってくださいました。タイトルの「文」の字に「ひっかけ」![]() |
――「秀英初号明朝」で困っている点はありますか?
坂野:外字が少ないことくらいかな……。でも頻度は少ないです。
――最後に、今後の「秀英体」へのご要望は何かありますか?
坂野:「秀英丸ゴシック」は読みやすいですね。キンキンしないので好きです。
「秀英角ゴシック銀」も動きがあって良いけれど、タイトルや見出しで使うためには、もう少し動きを入れて、太いウェイトがあると良いかな。
実は、本のカバーで使う場合は、活版印刷の頃ぐらいの文字の動きやムラは問題ないんです。わざわざ加工しなくてもいいので、そういう表情のある書体だと使いやすいですね。
初号明朝は、いまの骨格を元に細いウェイトが追加されると面白いかも!
お忙しいところ、秀英体の使いごこちについて詳しくお話ししてくださった坂野さん、ありがとうございました。新しい秀英体ファミリー開発に向けて、貴重なご意見を頂きました!
秀英初号明朝の発売から3年半が経ち、出版や広告などで初号明朝を目にする機会が少しずつ増えてきました。秀英体開発室一同、たいへん嬉しく思っています。これも、ひとえにユーザーの皆様の御支援のおかげです。これからも秀英体のフラッグシップ「秀英初号明朝」を末永くご愛顧ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
(2014.4.11 伊藤)