秀英体のコネタ
2008年04月16日
第24回 もじの精髄が一同に 08TDC展
ggg 第262回企画展 「08 TDC展」
2008年4月4日(金)~26日(土)
11:00-19:00(土曜日は18:00まで) 日曜・祝日は休館
入場無料
2008年4月4日から26日まで、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で、第262回企画展「08 TDC展」が開催されています。
毎年、春のgggといえばこのTDC展です。今年も、世界各国から集まった作品がギャラリーいっぱいに展示されています。受賞作のみならず、ノミネート作や、応募のなかから優れた作品も集まった今年の展示は約100点にのぼります。
今回の秀英体のコネタでは、08TDC展のようすを、駆け足でご紹介いたします。
目印は大日本タイポ組合作の「もじ」というロゴの旗
今年のグランプリ!服部一成:ポスター 服部一成展「視覚伝達」
1Fはグランプリ・TDC賞・各部門賞の受賞作を中心に構成されています。
平日だけど次々にお客様がいらしてました。
まずはグランプリ、服部一成さんの「視覚伝達」ポスターです。
グランプリ 服部一成展「視覚伝達」
昨年10月に開催された服部さんの個展「視覚伝達」のポスターがグランプリを受賞しました。服部さんのグランプリは昨年に続いての2年連続です!
直球なタイトルの通り、フルカラーを印刷するための基本の四色であるCMYK(藍赤黄墨)を用いて作られています。
ストライプのショートケーキ、よくよく見ると、4色がそれぞれ違う角度の線で構成されているのがわかります。
シンプルながら、印刷の根本が表現された作品です。
色ごとに線の角度が異なります。
TDC賞(1)Kjell Ekhorn & Jon Forss, Non-Format:レコードスリーブ「Moog Acid」
現在はイギリスとアメリカで活動するNon-Formatの作品は、「Moog Acid」のレコードスリーブです。
60年代末から70年代にかけ開発されたモーグ・シンセサイザーが、ジャケットでも大きく使われています(もちろんサウンドでも)。この頃を思わせる書体を新たに開発したそうで、ジャケットやレコードで使用されています。極細のヘアラインとたっぷりした肉付きが特徴的です。ラインの先端には水滴のようなエレメント。アルファベットの骨格はかなり幾何的に処理されていて、とってもおしゃれです。
この書体です。思わずカーブに目が惹きつけられます。
TDC賞(2)Guang Yu:カタログ「adidas / sleek series」
中国で大人気のグラフィック集団MEWE DESIGN AllianceのメンバーでもあるGuang Yuさんの作品です。Yuさんは2004年にもTDC賞を受賞しています。アディダスの女性向けライン「sleek series」のためのカタログです。
実はこれ、カーボン紙に印刷されています。よく見ると、紙の縁が青いのでそれとわかりますよ。また、手作業による箔押しや型抜きがなされ、カタログと呼んでいいのかわからないほどの手のかかりよう! 800部の発行というのもうなずけます。
印刷の調整が難しそうな紙……。現場はきっと奮闘しましたね。
TDC賞(3)中島英樹:ポスター+ブック「CLEAR in the FOG」
以前、コネタでもご紹介した中島英樹さんの「CLEAR in the FOG」の作品集が受賞です。
中島さんの全力投球な作品は圧巻でしたね。展示されている作品集では、「アイデア」No.320(誠文堂新光社)に掲載された別冊ミニ作品集もきちんと製本されてはめ込まれています。
1年半ぶりにgggに戻ってきました。
秀英体もこっそりと登場している展覧会の様子は、秀英体のコネタ 第20回をご覧下さい。
TDC賞(4)北川一成:イベントデザイン「落狂楽笑」
北川一成さんの作品は、なんとイベント「落狂楽笑」のデザインに対してです。北川さんといえばグラフィックデザインでおなじみですが、今回の受賞はイベントのデザインに対してとなりました。
「落狂楽笑」は昨年8月に21_21 DESIGN SIGHTで行われた、落語や狂言、一人芝居のイベントです。展示では、「落狂楽笑」の様子の写真が紹介されています。
会場となった東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTは安藤忠雄さんの設計による建物ですが、普段はギャラリーとして使用されているため、舞台として使うには音の反響が強く、音への対応は北川さんとしても力を入れたポイントだったそうです。
会場の赤いベンチシートも、反響を抑える工夫なんだとか!
TDC賞(5)Fernand de Mello Vergas:タイプデザイン作品「FRIDA」
Fernand de Mello Vergasさんの「FRIDA」というタイプフェイスは、新聞で使用されることを想定してデザインしたそうです。既存の新聞書体にはないニュアンスを取り入れた実験作です。
また、ベーシックなラテン文字だけではなく、多言語組版を想定し、タミール語のセットも同時に提案しています。もちろん、FRIDAのラテン文字と組み合わせても違和感のないようにデザインされています。
ついラテン文字や日本語ばかりに目が行ってしまいますが、確かに、様々な国の言語がミックスされた組版というのは、今後増えていくでしょう。
セリフはカリグラフィのニュアンスがあります。細かい設計ポイントも見所。
インタラクティブデザイン賞 Jonathan Harris:「Whale Hunt」
印刷物以外の、WEBやデジタルコンテンツに対して授与されるインタラクティブデザイン賞ですが、今年の受賞はJonathan Harrisさんによる捕鯨の記録です。
Harrisさんが自らアラスカへ赴き、10日間密着した記録です。写真のみならず、洗練されたインターフェースも必見です。写真の下部に出ている波形は時間当たりの写真の枚数を心電計のように表示したものです。必然的にHarrisさんがいつ・何に興味をおぼえたのかが追体験できます。
見出しで使用されている、銛で貫かれた書体は、今回のプロジェクトのために開発されました。
会場でも体験できます。
こちらは実際にインターネットから作品を閲覧できます。ぜひご覧下さい。
タイプデザイン賞 字游工房/代表 鳥海 修:タイプデザイン「游明朝体R」「游築初号ゴシックかな」「游築見出し明朝体」「游築初号かな」「游教科書体M」
書体そのものに贈られるタイプデザイン賞、コネタをご覧のみなさまならご存知、字游工房の5つの書体に贈られました。
「藤沢周平を組む」を合言葉に開発された穏やかな表情の本文用書体「游明朝体R」、明治期の名作書体である東京築地活版製造所書体に新たな命を吹き込んだ「游築初号ゴシックかな」「游築見出し明朝体」「游築初号かな」、そして硬筆タイプの現代的な教科書体「游教科書体M」です。
受賞5書体をじっくりご覧下さい
日本語の書体は、ひらがな・カタカナだけでもう100文字以上、漢字も一般的には約7000字は作りますし、さらに句読点や記号なども山ほどあります。また、アルファベット、数字、ギリシャ文字にキリル文字……。そして、当然のことながらひと文字ひと文字が違う形ですので、手作業でこつこつと積み上げていく開発作業です。
ベーシックな書体作りに長年取り組んできた字游工房の功績は、あまりに大きく、本当に頭が下がります。
ブックデザイン賞 Borries Schwesinger : 本 「Formulare gestalten ―Das Handbuch fur Gestalter und Anwender zu Hurden, Chancen und Gestaltungsfrangen」
今年新設されたのがブックデザイン賞です。今までなかったのも不思議なくらい、文字と本は切っても切り離せない関係です。
栄えある初回の受賞者は、Borries Schwesingerさん。「Formulare gestalten」は、フォーム(帳票)をいちから見直して提案した大著です。
テーマである各種フォームのデザインやタイポグラフィについても詳しく記述されていますが、この本そのもののフォーマットもびしっと美しい仕上がりです。
読みごたえがありそうです!
特別賞 Chao Sioleong:ポスター 「Place-ACT2:Exhibition of Macao Contemporary Art」
特別賞を受賞したのは、グラフィックデザイナーであり、マカオ芸術博物館にお勤めでもあるChao Sioleongさんのポスターです。
現代美術展のポスターなのですが、ぱきっとした色使いに思わず見入ってしまいます。カクカクと折れ曲がったエレメントの書体を使っていますが、単純にカクカクにしているわけではなく、略字形にもなっています!
マカオは繁体字が多く使われていますが、この「藝」は中国で使われている簡体字とも違いますし、日本語の「芸」とも違う、おそらくこの書体のための略字形ですね。独特のエレメントが引き立っています。
最初見たときに、略字形だと気づきませんでした。
まだまだもじもじもじ!
受賞作以外の展示も盛りだくさんです。
あまりに数が多いので、わたしが気になったものをピックアップしてご紹介していきます。
田中義久さんの作品。文庫本が竜安寺の石庭のように、幾何学的な模様に削り取られています。
斜めに並ぶ紙・文字の断面に、不思議と見入ってしまいます……。
アートワークは飯田竜太さんです。
中央に向かって下り坂になっています
こちらの展示ケースにはブックデザインがたくさんあつまっています。
読んだことのある身近な雑誌から、大きな上製本、海外の味わいのある紙に刷られた中綴じの冊子まで、バラエティ豊かなブックデザインです。
ブックデザインが中心のケース
こちらはタイプデザインが集まったコーナーです。
スクリプト体や連綿体など、書く軌跡の残る書体が多いような印象でした。TDC賞の「FRIDA」もそうでしたが、クラシックな書体の特徴を新しい書体に組み込むケースが多いのは、最近の特徴なのかもしれませんね。
DNPの館内サイン用書体もあります
大日本タイポ組合とコクヨのコラボレーションから生まれた「トイポグラフィ」。積み木を並び替えると、「兎」「RABBIT」とうさぎちゃんの絵になったり、楽しく学べる積み木です。
ちなみに、旗にもなっている今年のTDC展のロゴは大日本タイポ組合の作ですが、「もじ」の中に「tokyo tdc」という文字も隠れていますよ!
やってみたい……
浅葉克己さんの作品は、腕木通信がモチーフ。
18世紀末にフランスで開発され、フランス革命からナポレオンの時代に活用されたこの腕木通信、絵のように建物の屋根に腕のような柱があり、この角度で文字を表現したのだそうです。
AからZと&、1から10が順に並んでいます。
腕木通信
昨年、世田谷区で行われた「活版再生展」のフライヤーで、高田唯さんの作品です。
特色や特殊加工のたくさん使われた展示のなかで、ひときわストイックに活版印刷です。
活版はハンコと同じく、でっぱりを紙に押し付けて刷るので、ベタの面が広いと、どうしても内側がかすれてしまいがちですが、そこもあえて残しているのでしょうか。ちょっととぼけた感じです。
縁はくっきり、中は少しかすれています。
パッケージや広告だってあるんですよ!
まだまだ文字の世界は尽きないのですが、あとは実際に会場でご覧いただければと思います。
印象的だったのは、受賞したYuさんやSioleongさんをはじめとした、アジアのデザイナー作品が多かったこと。とても勢いが感じられました。
文字はかめばかむほどスルメのように味の出る世界、ぜひたっぷり時間をとって、たくさんの展示を堪能してください。応募総数3140点の中をかいくぐって選ばれた作品たちです。
(2008.4.16 佐々木)