秀英体のコネタ
2005年08月11日
第11回 東京国際ブックフェア2005で何が起こったか(3)

『秀英体研究』の装幀を手がけて頂いたデザイナーの白井敬尚さんも最前列に陣取って夢中で見ています。

実演の内容をマイクで解説していたDNP製本の中村さん。お客様の気迫に押されて、こんなに後ろから覗き込むようにして解説をしていました。
前々回・前回のコネタに引き続き、東京国際ブックフェア2005・DNPブースのもよう、完結編です。
前々回は糸綴じ・断裁の終わった中身に丸み出し・バッキングの作業を行ないました。前回はその中身の背固めを行い、継ぎ表紙を作成しました。最終回の今回は表紙で中身をくるみ、ミゾ付けを行ないます。
まずは、中身と表紙を接着する表紙くるみの作業です。
表紙の内側は、芯になる板紙が貼ってありますが、実は背との境目部分だけ、スリットのように板紙のない部分があります。のちほど表紙のミゾになる部分(中身の耳がくる部分)です。ここと、背固めでいちばん最後に貼ったクーターの部分に膠を塗ります。

膠を塗ります
中身を表紙にのせ、まず小口、続けて天地のチリが揃うように位置を調整します。チリとは、表紙が中身より飛び出している部分をさします。表紙はチリのぶんだけ中身より大きくできているので、チリを余分にとったり少なくしたりすると、背の位置が微妙にずれてしまいます。
天・地・小口のチリが決まったらずれないように片手で押さえ、膠が乾かないうちに、もう一方の表紙をぐーっと強く引っ張りながら、表紙と中身の背を密着させます。
膠で接着はしましたが、熱のちからを借りて表紙と中身をさらに圧着させます。ミゾ付けの工程です。『秀英体研究』は中身と背の間に空間のできるホローバックという製本方式を採用しました。この場合、ページの開閉で負担がかかるのは背の終端、つまりこれから付けるミゾの部分になります。ここをしっかり圧着させ、壊れにくい本にします。
ミゾ付けは、バッキングの工程で出した耳に沿って鏝(コテ)で背を押さえる作業です。写真は古い鏝です。いまでは電気で熱が入る鏝を使いますが、昔はこちらでした。鏝先の形から「イチョウ」とも呼ばれています。

昔のミゾ付けの鏝。イチョウの葉に似ています。
熱した鏝を、中身の耳の位置にぐっと押し当てます。このとき鏝先を均等に押し付けるのではなく、進行方向に少し浮かせるようにします。そして背革の内側にある耳の突起に沿って鏝をスーっと滑らせミゾをつけます。
写真では手前に向って(本の天から地に向って)ミゾを付けているので、手前側の刃先がほんの少し浮いています。

ミゾ付けの工程
そして最後の工程、見返し貼りです。表紙にボンドで見返しを貼り、中身と表紙を完全に一体にします。

ボンドを入れたバットに傾斜をつけて。
見返し貼りには膠ではなくボンドを使います。ボンドのバットは片側の底を上げ傾斜をつけて、使いやすいようにします。

刷毛の持ち方
刷毛の持ち方は、柄の付け根を、親指と人差し指・中指ではさんで持ちます。薬指・小指は裏で支えています。
- のどの中央、すこし小口側に一度刷毛をおろし、毛先を揃えます
- そのままのどの際にボンドを塗り
- 天地に向って「ハ」の字を書くように刷毛を動かしていきます
決して天・地・小口側からのどに向けては動かしません。それをやってしまうと、小口にボンドがついてしまうからです。のどから「ハ」の字が基本です。

刷毛の動かし方
この作業はとにかく手早く! ボンドの水分で見返しの紙がくるんと丸まってしまいます。
開場前にわたしも体験させてもらいましたが、写真のとおり、見返しは丸くなっています。周りで眺める職人たちからは「もっと早く!」「ボンド多いよ!」「刷毛は立てて!」「ムラなく塗って!」と矢継ぎ早に厳しいチェックが入り、そして「それでも印刷会社の社員かー!」と厳しいひとことが……。

小口側の見返しが……。刷毛の握りにもしまりがない。
表裏とも見返し貼りを済ませた本は、万力にかけられ、接着剤の乾燥を待ちます。見返し貼りの段階では、紙の間に気泡がはいっていたりもしますが、プレスしているうちに平らになってくれます。通常は一昼夜かけて膠がすっかり乾くまで待つそうです。

ようやく製本完了!
お客様にも体験していただきました
匠の技の実演後も、職人たちへ質問が相次ぎ、中にはブースにはいって実際に工程を体験したお客様もいらっしゃいました。
|
|
|
|
| 職人がサポートしながら体験です | バッキングは男性の力でも思い通りに耳がでません | お子さんもたくさん参加しました | 見返し貼りの「ハ」の字は何気ないけど難しい |
|
|
|
|
| こちらの方は、実演した工程をすべて体験! 出来上がった本は記念にお持ち帰りいただきました。 | |||
|
|
|
|
| お年寄りも | 男性も | 女性も | ヤングたちも |
|
|
|
|
| 人ごみの後ろから | 実演コーナー脇から | 職人の後ろから | 最前列かぶりつき |
1回の実演が30~40分と長時間にわたり、準備の段階では「最後まで見ていただけるだろうか」と心配しておりましたが、いざ実演が始まると実演コーナーを離れず最後までご覧下さるお客様ばかりでした。ブックフェアのお客様ですのでみなさん本が好きということはわかります。とはいえ職人の手作業というものがこれほど人の足を止め、真剣に見入ってしまい、ついつい体験までしたくなる魅力があることに驚きました。
機械化の進んだ印刷の中で、製本は特にまだ人の手が入らざるを得ない工程です。製本は紙の束を「本」というモノの形に仕立て上げる工程ですので、多様な表現が求められます。製本の方式、紙の種類、本の厚み、様々な要素が絡み合っています。機械がその本の仕様に対応していなければ、手作業で行ないます。手製本の技術を持つ職人は、だんだんと少なくなってきていますが、実演に登場した3人が持つような製本技術は、まだまだ現場に必要とされているのです。
モノを作り上げる瞬間は、とてもダイナミックで、惹かれてしまうものです。DNPの中には製本以外にも、様々なモノづくりの技術があります。少しずつでも、コネタでまたご紹介していければと思っております。
(2005.8.11 佐々木)